大判例

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東京高等裁判所 昭和49年(行ケ)6号 判決

事実及び理由

一、本願考案の構造上の特異性について

原告は本願考案における脱落防止部の張出し環状縁が容易に想到しがたい斬新な構造であると主張する。

ところで、いずれもワツシヤーをボルト頭とネジ部の間で遊動するようネジ部上部に脱落防止部を設けたワツシヤー付ボルトとして、ワツシヤーの脱落防止部をみると、第一引用例のものはボルト本体の切込みによりその周縁に適当数の三角状突片を突設しており、また第二引用例のものは本願考案と同じく予めワツシヤーをはめこんで環状の塗料層を設けていることは争いない事実である。そして、成立に争いない甲第二、三、四号証(手続補正書)、第六号証(第二引用例)によれば、本願の張出環状縁と第二引用例の環状塗料層とは、その実施例として図示されたものにおいて外部の形態は極めて近似している。

そして従来の光軸調整用ビスとして争いのない検甲第一号証の一および前掲甲第二号証によれば、従来のビスにおいては切削成形により環状のワツシヤーをボルト頭と一体的に形成したものが周知であつたことが認められる。

また、ネジ転造において、ネジの谷部を刻設する際に排出する金属部によりネジの山部を隆起させることが従来周知の技術であつたことは、争いのないところである。

そうすると、本願考案における脱落防止部の張出し環状縁は、前記各公知・周知技術のもとにおいて、第一引用例におけるボルト本体の切込みによる突設にかえて、前記周知技術により、ネジ刻設の際、変形排出する(盛りあがる)金属部素材を利用して、その上端部に環状の隆起を転造・鍛造その他の方法により生じさせ、ボルト頭と一体的に形成したものであつて、その形状・構造自体は当業者であれば極めて容易に想到できる範囲のものとせざるを得ない。ちなみにその製造方法自体は本願考案の対象ではない(成立に争いない甲第七号証、乙第一号証参照)。従つてこの点に関する審決の判断に誤りはない。

二、本願考案の作用効果について

前掲甲第二、三、四六号証検甲第一号証の一のほか、成立に争いのない甲第五号証、乙第一号証を総合すると、次の事実が認められる。

本願考案の出願当初からの経緯に、本願ワツシヤー付ボルトの大きさ、材料またはワツシヤーの厚さ・形態などに特段の限定がないことを考えあわせると、本願考案の目する主たる作用効果は、第一、第二引用例と同じく締付作業にいたるまで取扱中のワツシヤー脱落防止をはかるものとせざるを得ない。その限りにおいては本願考案と各引用例との間に格別の違いは見出しがたい。

また特殊な使用方法の場合を想定した荷重を支える効果について考えてみても、第一引用例でも三角状突片の材質、切込みの深さ、突片の数を適当に選べば、荷重を支える力がないとは断定しがたいし、本願の張出し縁の荷重に耐える効果も一体的に形成したことにより当然に予測できる程度のものに過ぎず、特段のものとはいいがたい。

さらに原告が多用性の例としてあげる光軸調整用ビスの効果について検討すると、なるほど本願考案の実施態様によつては前掲検甲第一号証の一に示されたような切削成形のビスに比して挾着する板厚の変化にたやすく応じられる効果が認められる。しかしながら光軸調整の性質上、一般的なワツシヤー付きボルトの使用と異なつて、実施上大きさの限定、ワツシヤーと張出縁との附着・遊動の度合などの調整を加えねばならず、本願考案の対象となるすべての実施態様において光軸調整用ビスの効果を併有するものとは到底考えられない。しかもそのような調整・限定のもとでは、第一引用例のものも前示認定のとおり三角状突片の材質・数・切込みの深さいかんにより同様な効果をもたないとはいえず、また第二引用例のものにおいても、塗料層の材質、塗着形成方法を適当に選べば、同様な効果を期待することもあながち不可能とはいえない。したがつて、この点に関する効果も各引用例に比して顕著なものとはいえず、結局作用効果についての審決の判断には誤りがない。

三、結論

そうすると、審決には原告の主張するような違法のかどはないから、原告の本訴請求は失当として棄却するほかはない。

〔編註〕本件における請求原因は左のとおりである。

一、特許庁における手続の経緯

原告は昭和四一年七月二一日特許庁に対し、名称を「ワツシヤー付きボルト」とする考案につき、実用新案登録を出願したところ、同四五年五月一二日拒絶査定を受けた。そこで原告は同年七月二日審判の請求をし、同年審判第六〇六一号事件として審理されたが、同四八年一一月一日「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は同年一二月二四日原告に送達された。

二、本願考案の要旨

(一)  ボルト本体の上方にワツシヤー(座金)をはめこんでネジ部を刻設するときに

(二)  ワツシヤーの下面内周縁を受止める張出し縁を環状に隆設し

(三)  ワツシヤーをボルト頭と張出し縁の間で遊動させるようにした

(四)  ワツシヤー付きボルト

三、審決理由の要点

本願考案の要旨は、前項のとおりである。ところで、実用新案出願公告昭和四〇年第八五七三号公報(以下、「第一引用例」という。)には、

(一)  ボルト本体の上方に、ワツシヤーをはめこんで、ネジ部を刻設するときに

(二)  ワツシヤーの下面内周縁を受止める三角形の突片を突設し

(三)  ワツシヤーをボルト頭と突片との間で遊動させるようにした

(四)  ワツシヤー付ボルト

が記載されている。

そこで両者を比べると、それぞれの構成要件(一)、(四)は一致し、構成要件(二)、(三)の対比の上で本願考案が環状張出し縁を設けてあるのに対し、第一引用例は三角形の突出片を設けている点で差異があるだけで、その作用効果に顕著な差異はない。しかも同じ目的・効果を奏するようワツシヤー付ボルトにおいて塗料層により環状部を設けることは、実用新案出願公告昭和四〇年第八五七四号公報(以下「第二引用例」という。)に記載されている。また一般にネジ転造においてネジの谷部を形成する際排出する金属部はネジの山部を隆起させることとなることは、普通の技術常識である。

したがつて本願考案は各引用例および慣用手段から当業者が容易に考案することができたものと認められるから、実用新案法第三条第二項の規定により実用新案登録を受けることができない。

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